大和総研コラム

スマートフォンについて

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2014年3月28日
  • 大和総研顧問 小笠原倫明

最近、筆者の身近でもスマートフォンを使用する方が増えてきた。マスコミ等で取り上げられる機会も多い。この機会に、「スマホ」について普段思っている事を、あまり脈絡なく書き連ねてみる。

1 「スマホ」とは

スマートフォン (以下、「スマホ」) は、ハードウェアとしてはパソコン (PC) そのもの。PCがプログラムの一つとして電話やメールの機能も持っていると考えた方がよい。従って、①プログラム (いわゆる「アプリ」) を追加すれば、電話やメール以外の様々な機能を持つことができる。また、最新型のスマホは、10年前のPCと同等あるいはそれ以上の性能を持つと言われ、数十年前のスパコンと同等の性能を持つとも言われている。

但し、スマホが普通のPCと違う所は、②利用者が24時間365日肌身離さず持っている。机上のPCと異なり、電源を切る事が滅多にない。インターネットにいつもつながっている。③GPS機能が標準搭載されており、利用者が今何処にいるのか常に知らせる事が可能。④他の身につける物 (腕時計やリストバンド、眼鏡、更には肌着等々 いわゆる「ウェアラブル端末」) から微弱な電波で情報を収集し、それをスマホからセンターに送信することで、利用者の体調の変化・運動の効果を常時把握する事が可能。逆に、センター側から、利用者が今見ているもの・場所に関する情報をスマホや眼鏡に送信することも可能。

スマホの利便性も、逆に (本稿では触れないが) 極めて大きな課題であるセキュリティ・個人情報保護の懸念も、このようなスマホの特徴に由来する。

2 2020年のスマホ

スマホの普及は (最近ややスローダウンしているものの) 急速に進んでいる。2013年度の我が国のスマホの出荷台数は約3000万台であり、携帯電話全体の出荷台数の3/4を占める。契約数は約5600万件。2013年度末の携帯電話契約数の半分近くを占めると推計されている。また、世界的な傾向でみると、2013暦年の世界のスマホの出荷台数は約10億台と推計されている。注目すべきは、これが欧米先進国にとどまらない事で、新興国、例えばシンガポールやマレーシアなどのスマホの普及率は日本を上回るとする調査結果もある。

おそらく、6年後の2020年の東京オリンピック・パラリンピックに海外から日本においでになるお客様は、ほとんど全員がスマホを携帯しているとみるべきであるし、加えて、様々なウェアラブル端末も身につけている可能性がある。海外からのお客様が持つスマホやウェアラブル端末に対し、日本、東京、そして会場周辺の様々な情報を、お客様の母国語で、またお客様が今そこに立っている場所に即した形で提供することは、東京五輪の「おもてなし」の重要な要素となるものと思われる。

別な側面として、既に2年前のロンドン五輪の公式ウェブサイトのピーク時の通信量の約60%はモバイル端末経由であったと言われている。また、今やスマホを持てば、誰もが何時何処でも放送局になり得る。例えば、競技会場の観客が競技の模様を母国の家族に動画で中継することも「技術的には」可能 (但し、観客の多くが一斉にそれを行えば、ネットワークがパンクする危険あり) 。いずれにしろ、競技施設内や会場周辺では、ロンドン五輪とは比較にならない程の量のデータが飛び交う可能性がある。これに如何に対応し、あるいはこれを如何にコントロールするかは、セキュリティの確保に加え、関係者にとって大きな課題となるだろう。

3 他のメディアへの影響

スマホは、ハードの性能向上やソフト (アプリ) の追加により、他の多くのメディアの機能を統合する、あるいはプラットフォームになる。スマホの普及によって、コンパクト型デジカメの販売不振が生じたり、ゲーム制作企業の経営に大きな影響を与えたり、といった事象は記憶に新しい。テレビやラジオ、新聞、書籍なども、スマホやより大型のタブレット端末で視聴が可能になっている。

また、これはネットやケータイの出現以来論じられてきた事だが、スマホの普及が、TwitterやFacebook、更にはLINEなどのいわゆるソーシャル“メディア”との接触機会・時間を拡大させ、極端な場合にはスマホ“依存症”が心配されるケースも生じている。これは、友人・知人とのコミュニケーションがいわば新しいメディアの役割を果たすものとみることもできる。これによって、既存のマスメディアとの接触時間が減少する可能性や、更には後述するスマホへの支出が、新聞や雑誌など他メディアへの支出をクラウドアウトする可能性を心配する向きもあるかもしれない。

スマホ依存症や個人情報保護等の問題については、自動車の普及によって交通法規・道徳の整備・涵養が必要になったように、新たな配慮が必要である。いずれにせよ、スマホはやがて多くの方の必須の機器になり、それによる様々な利便性の向上、新しいサービスの創出や産業の活性化が期待される。今後、利用者の選好に応じて、高性能・多機能、そして魅力的なデザインのスマホやウェアラブル端末の提供がますます期待されるであろう。また、必須とされる方にとっては、コモディティ (日用品) として、より低廉なスマホ端末や通信料金も求められるものと思われる。

4 スマホの通信料金

我が国のスマホ利用者が支払う通信料金は、端末の購入に掛かる費用を除き、月額約7千円 (従来型携帯電話の約1.8倍) との調査がある。端末費用も含めれば月額一人1万円、一家で数万円の支出も珍しくはないのではないか。ネットや携帯電話の家計支出に占める割合は年々上昇してきたが、スマホの普及はそれを加速している。

日本の携帯電話・スマホの通信料金は、他の先進国と比べ必ずしも安いとは言えない。通常のユーザーにとっては、むしろ高いとも言える。我が国の移動通信網が世界最高水準 (高速) である事を考慮する必要があるが、加えて、以下のような議論があると考える。

5 通信サービスと端末の提供

我が国においては、スマホを含めた携帯端末は、通信事業者 (実際にはその代理店) から購入するのが普通 (世界的にみると、通信事業者との契約と端末の購入は別個に行われるという形も多い) 。

そうした中で、最近報じられているように、一家まとめて通信事業者を変更すると数十万円のキャッシュバックを得られるという事象が生じている。キャッシュバックの原資は通信事業者が代理店に支払う販売奨励金。このコストは通信料金で回収される。通信事業者を頻繁に変更する利用者だけがメリットを受け、他方、一つの事業者を長く利用している者は特段のメリットを受けず、販売奨励金のコストを含む (割高な) 通信料を負担している可能性があるのではないか、利用者間の公平の観点から如何かという議論も生じている。

また、通信事業者の販売戦略によっては、特定の高機能 (従って高コスト) な端末が、最も低い価格、あるいはいわゆるゼロ円で販売される事もある。これは端末市場の競争を歪める可能性があるのではないかという見方もあり得る。勿論、こうした販売戦略がスマホ利用の初期コストを引き下げ、普及を加速した側面は否定できない。しかし、スマホの普及が一定程度進み、また海外では低廉なスマホ端末の提供・開発も急速に進展している現状においては、関係者が改めてよく検討すべきタイミングにあるのではないかと思われる。

6 通信サービス市場のパフォーマンス

携帯電話事業については、前世紀に、新規参入に関する外資規制や、いわゆる需給調整条項が撤廃されている。併せて、使用する電波の制約を緩和するために、新しい周波数の開拓も継続的に進められてきた。これまで、外国企業も含め、数十に上る数の事業者が参入したが、多くの撤退や企業統合等がなされ、現在では、概ね3つのグループに集約されている。3社のスマホ通信料金はほぼ同一であるが、それが一部の大量に映像を視聴する利用者に焦点が当たったものであり、通常の利用者には割高になっているのではないかという議論がある。MVNOと呼ばれる再販事業者等によって、データ通信利用に主眼をおいた低料金のサービスも提供されているが、まだ、一般の消費者に身近なものとはなっていない。航空分野のLCCのような、「一定の」品質 (性能) 、低廉な料金という選択肢が、誰にも使いやすい形で提供される事が望ましい。

もとより、政府の規制は必要最小限に留め、特に電気通信のように技術進歩の急速な分野では、それを妨げないよう配慮を要するが、通信サービス市場が寡占的な性格を持つのは世界共通故、そのパフォーマンスが良好に保たれているか (料金の低廉化、多彩なサービス、選択肢の提供) 常に注視が必要。政府においては、最近電気通信分野の公正な競争を促すための議論が開始されたが、前述のように、こうした問題を考える上でも時宜を得たものと思われる。

小笠原 倫明

前総務事務次官。1976年京都大学経済学部卒業 郵政省入省。情報通信政策局長、情報通信国際戦略局長、総務審議官 (郵政・通信担当) を経て2012年に総務事務次官。2013年10月より現職。一般財団法人日本ITU協会理事長。


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