経済財政諮問会議で2月20日に提出された「持続的成長を支える中長期の安定した投資の推進に向けて」(※1)では、企業等の中長期の資金需要を満たすため、短期取引ではなく中長期投資を促進するための環境整備としていくつかの項目が提案されている。その中の一つとして「種類株の積極的活用」が挙げられている。わが国で種類株式が普及していないことを受けて、「普及しない要因、種類株を活用して長期保有を促す措置やその実現のための対応策など、諸外国の例を参考にしつつ、経産省等で対応を検討すべき」とされている。
具体的にどのような種類株式を念頭に置いているかは、上記の記述からは明確にされていない。しかし、当該文書の基になったと思われる「目指すべき市場経済システムに関する報告」 (平成25年11月1日)(※2)では、参考資料で、「現行会社法上、中長期保有株主に対して議決権及び配当面において優遇する措置は可能」、「会社法上、中長期保有株主を配当面で優遇する種類株を発行することは可能」と述べられている。さらに、前者について下記を例示している。詳細は、今後検討すべきとしているが、念頭にあるのは、例えばこれらのようなものであろう。
中長期保有の株主を対象とした優遇措置の導入は、上場株式では難しい。中長期保有を維持するための仕組みが困難である(※3)。さらに、同一種類の株式において、保有期間によって株主の権利の内容が変わってしまうということが、会社法上認められるかも、疑問が残される。したがって、このような種類株式は、譲渡制限付の非上場株式といった形態にならざるを得ないと思われる。
譲渡制限付の非上場株式を前提とした場合、当該種類株式の株主を、どのようにして確保するのであろうか?
議決権数が多くなる種類株式については、上場している議決権の少ない株式を保有している投資家が、自らの権利を確保するために保有することはあるかもしれないが、積極的に保有するインセンティブは働かない。上述の参考資料で「議決権及び配当面」として、議決権のみならず配当面の優遇措置も盛り込んでいるのは、そのことを踏まえてのものと思われる。
配当面で優遇されるとしても、いざ売却する時に換金性が乏しい株式に投資する機関投資家がどれだけいるのであろうか?年金などを想定しているとしても、配当が維持できなくなった場合や年金受給者への支払原資確保のための換金性を確保する措置は講じておく必要があろう。また、非上場株式であることを前提にすれば、個人株主の場合は、税制上は、上場株式よりも不利な取り扱いを受ける(※4)。
中長期保有株主に対して優遇措置を与える種類株式の保有者としては、創業者やオーナーなどが中心となることが考えられるが、議決権数に差異を設ける場合の大きな懸念事項として、議決権数の多い種類株式が持合いや政策投資の手段として用いられることがないかという点がある。このような種類株式を持ち合うことは、一般的な株主の権利行使を制限するという意味では効果的である。配当の優遇措置を設けることにより、当該種類株式の保有の理由を説明しやすくなる。上場している普通株は時価評価の対象になるのに対して、非上場の種類株式は時価評価の対象外という点でも、時価の変動にさらされる普通株式よりは保有しやすくなる(※5)。
わが国では、東京証券取引所 (東証) のルールで、議決権数の少ない種類株式のみの上場については、新規上場企業に限って認めている。平成26年 (2014年) 2月5日に東証が公表した「IPOの活性化等に向けた上場制度の見直しについて」(※6)では、当該種類株式の上場審査要件の明確化を提案している。しかし、既存の上場株式については、議決権の多い株式の発行そのものを認めておらず、この点の改正は予定していない。IPOの場合、投資家は、議決権数が少ない株式であることを前提として投資するため、問題は少ないと思われるが、既存の上場会社にまで拡張することには、既存の上場株式の株主にとって弊害が多く、今後も慎重であるべきと思われる。
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