大和総研コラム

「経常収支が赤字化したら財政破綻」は本当か?

  • 経済
  • 掲載日 : 2014年2月18日
  • 大和総研経済調査部 エコノミスト 小林俊介

国際収支統計 (財務省、日本銀行) によれば、2013年の経常収支黒字は3.3兆円 (速報値) と、比較可能な統計が取得できる1985年以降で最小の黒字幅となった。足下での黒字幅の縮小は、円安に伴う輸入価格の上昇、消費増税前の駆け込み需要などを受けた輸入数量の増加、原発停止に伴うエネルギー輸入額の増加などである。しかしこうした要因を除いて考えたとしても、高齢化に伴うマクロの貯蓄率低下に伴い経常収支はトレンドとして黒字縮小が続いており、今後もこのトレンドが継続していく中でいずれ経常収支が赤字に転じていく可能性があるとの指摘もなされている。

経常収支の赤字化が将来的に予想されつつある中で「経常収支が赤字化したら財政破綻」という非常に刺激的なシナリオが一部で提示されるようにもなってきた。このシナリオについて、通説をまとめれば下記のようになろう。すなわち、日本国債は強力なホームバイアスを背景として国内貯蓄により買い支えられており、結果として金利は低水準に抑制されているが、経常収支が赤字化する (つまり国内貯蓄率がマイナスになる) 局面では海外部門によるファイナンスに頼らざるを得なくなり、国債価格は国際的な価格裁定条件に晒されることになるため、金利が上昇して国債のファイナンスが困難になる、というシナリオである。

しかしこのシナリオの妥当性を考える上で、いくつかの重要なポイントについて議論の余地があるように思う。1つめは、ホームバイアスによる買い支え効果があるとして、それがどの程度金利を抑制しているのかという点である。確かに日本国債の国内部門保有比率は非常に高い。また、為替リスクや銀行の自己資本比率規制、情報の非対称性の存在を加味した合理的な投資の意思決定によりホームバイアスが生じることは、日本に限らず国際的に指摘されてきたことでもある。これらのことと、膨大な政府債務残高を背景に先進国の中では低い投資格付けがなされている日本国債の金利が低いことから、ホームバイアスが金利を抑制しているとの指摘は状況証拠と整合的である。しかしこの金利抑制効果を正確に推計することは難しい。計量的手法により一定の数値を提示することは可能だろうが、コントロールされるべき変数が非常に多いことを踏まえると、推計結果は相当のノイズを含んだものとなる可能性が高い。

2つめは、経常収支はフローの概念にすぎないという点である。日本は経常収支黒字国であるとともに、ストック面で見ても対外純債権国でもある。上述したような要因を背景としてホームバイアスが働き続けるのであれば、日本の国債金利が上昇に向かう中で対外債権が国内に還流し、結果として金利の上昇が抑制される可能性は無視できない。この点を勘案すれば、フローとしての経常収支が赤字化した瞬間に国際的な価格裁定条件に晒されて国債金利が急上昇するというよりも、ストックとしての対外債権の取り崩しが進む中で緩やかに上昇していく、という姿の方がより現実的かもしれない。

3つめは、そもそも国内部門による買い支えが金利を抑制する効果が今後も維持されるのかという点である。ここまでの議論では、金利抑制効果が一定のまま今後も維持されていくとの前提に立ってきた。しかしこの前提は些か強すぎる。たとえば前段の話との関係で言えば、ストックとしての対外債権を減少させるフローとしての経常収支の赤字化は、将来の国債購入余力の減少を投資家に意識させることを通じ、早期の国債離れ、および金利上昇を惹起する可能性は十分考えられる。また、そもそもの話になるが、国内投資家も、諸々の条件を考慮して合理的に投資行動を決定しているのであって、優先的に国債の保有を行うことが義務付けられているわけではない。財政再建に対する期待が後退すれば、国内投資家も合理的な判断に従って日本国債の売却を進めるだろう。そうなればもはや、経常収支黒字が維持されているかぎり日本の財政は大丈夫か、という議論とは次元が異なってくる。

結局のところ、経常収支が財政の持続可能性に与える影響は無視できないものの、黒字だから大丈夫、赤字だから破綻、という単純な話にはならないということなのだろう。


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