大和総研コラム

タンゴやメッシを生んだ国・アルゼンチンの横顔

  • 国際
  • 掲載日 : 2013年11月20日
  • 大和総研金融調査部 研究員 菅谷幸一

「世界の国々は4つに分類される。先進国、発展途上国、そしてアルゼンチンと日本である。」かつてノーベル経済学賞を受賞した米国のサイモン・クズネッツはこのように述べたという。先進国から没落したアルゼンチンと奇跡的な成長を成し遂げ先進国入りした日本を評してのことだが、両国は非常に稀な例外としてクズネッツの目に映ったのだろう。

筆者は、アルゼンチンを一度も訪れたことがなく、特に関心も持っていなかったが、財務省・国際局に出向し、同国を担当するようになってから、不思議な思い入れを持つようになった。当初は、アルゼンチンと聞いても、ダンス・音楽のタンゴやサッカー選手のメッシくらいしか思い浮かばなかったが、日本では一般的にあまり知られていない、さまざまな「騒ぎ」を起こしていることを知るようになった。

たとえば、2001年のデフォルトを巡っては、強引な手法で債務再編を実施するに至ったのだが、債務交換に応じなかった民間債権者から旧債券を買い集めた米国投資ファンドとの裁判闘争は現在も続いている。また、公的債務の返済については、パリクラブ(※1)を通じた交渉が行われているもののいまだ解決には至っていない (ちなみに、アルゼンチンはG20で唯一のパリクラブ債務国である) 。さらに、アルゼンチン政府による輸入制限措置に対しては、日米欧が共同でWTOに正式提訴しており、また、アルゼンチン政府によるスペイン企業 (YPF) の一方的な国有化 (2012年) に対しては、スペイン、EUをはじめ、米国、アジア・中南米諸国が非難声明を発出している。このほか、フォークランド (マルビナス) 諸島を巡る英国との領有権争いや、経済統計の不正操作疑惑を巡るIMF協定違反、海外企業との投資協定違反での多くの訴訟など、アルゼンチンを巡っては数多くの「国際問題」が存在する。これらはアルゼンチンリスクともいわれ、内外からの投資を阻害する要因にもなっている。

このような問題が頻発する理由は何か。アルゼンチンは、2001年のデフォルト以降、国際金融市場から締め出された状況にあるため、海外から新たな融資を受けることができない。そのため、基本的には輸出から得られる外貨で輸入等の外貨需要を賄わなければならないという制約があり、外貨準備の確保を最優先の政策目標に位置付けている。このような事情から、アルゼンチン政府は、保護主義的色彩を強めており、国際的なルールを軽視する傾向にある。大衆迎合的な政権の下、自国の利益を優先させた結果、諸外国や国際機関との対立や懸案事項が数多く存在するに至っているのだ。

アルゼンチンがここまで強気でいられる背景には、豊かな天然資源に支えられた底堅い経済力があるといえる。アルゼンチンは、パンパと呼ばれる肥沃な土壌を有しており、穀物自給率は2009年時点で252% (日本26%)(※2)に及ぶ。広大な国土 (世界8位、日本の7.5倍) において、農産物では、輸出量世界3位の大豆、同2位のとうもろこし等の輸出力を誇り、また、エネルギー資源では、銅やリチウム等の豊富な鉱物資源のほか、埋蔵量世界3位のシェールガスが確認されている。さらに、輸入代替工業化は発展途上にあるが、2001年のデフォルト以降は経済成長を維持しており、関税同盟であるブラジル等とのメルコスール (南米南部共同市場) の経済規模はASEANを上回っている。このような経済構造を持つアルゼンチンの底力は強く、簡単には強気の姿勢を崩さないのだ。

国際的に問題視されがちではあるが、ビジネスチャンスが多いのもまた事実であり、それを知っている欧米企業は、ビジネス上の関係を継続し、高い収益率を上げているようだ。日本では、各種報道を受け、腰の重い企業が多いといわれるが、このギャップに気づいた企業も存在している。もともと日本とアルゼンチンは、伝統的に友好協力関係を維持してきており、在留邦人・日系人は3万人を超えている。日本人に対する信頼感は厚く、現地商慣習においても強みとなるようだ。

アルゼンチンは、経済面では負の側面が取り上げられやすいが、同国の持つポテンシャルの高さもより注目されるようになればと思う。


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