大和総研コラム

持続可能な賃上げの条件

  • 経済
  • 掲載日 : 2013年11月7日
  • 大和総研経済調査部 エコノミスト 齋藤勉

賃上げムードが広がっている。政府、労働者、経営者で構成される「経済の好循環実現に向けた政労使会議」では、日立製作所の川村会長やトヨタ自動車の豊田社長がベースアップに対して前向きな姿勢を示した。好業績を受けて、ベースアップを決定した企業もある。

まさに安倍政権の要請通りの動きであるが、重要なのはこの賃上げムードが来年以降も継続することである。一年だけ賃金が上昇しても、来年以降低下に転じてしまっては、好循環は達成されず、デフレ経済に逆戻りしてしまう。

賃上げは企業にとってコスト増であり、収益悪化要因である。収益が改善しなければ、翌年以降の賃上げは見込まれず、むしろ賃下げの動きが広がる可能性もある。つまり、企業収益の改善と賃金の上昇が両立することが、持続的な賃上げの条件なのである。

では、賃上げと企業収益の改善が両立するのは、どのような状況なのだろうか。筆者は、持続可能な賃上げには、二種類のケースがあると考えている。

まず、賃上げ分が販売価格に転嫁されることで、物価が上昇していくケースである。人件費増加によるコスト増を販売価格に転嫁することができれば、企業の収益は悪化しない。もちろん、物価上昇を考慮した実質賃金は上昇しないため、個人消費が大きく増加するということも起こらない。しかし、賃金も物価も上昇することで、デフレから脱却することができる。

内閣府の調査によれば、賃金上昇を販売価格に転嫁することができた企業は10%以下に留まっている (図表1) 。販売価格の上昇が消費者に受け入れられないと企業側が考えていることが、大きな要因である。つまり、このケースを達成するためには、企業が賃上げ分をきちんと価格転嫁すること、さらに、雇用者 (消費者) が、販売価格の上昇を受け入れることが必要である。

次に、労働生産性が上昇し、生産性上昇分が適切に賃金に反映されることで、賃金が上昇していくケースがある。労働者一人あたりが生み出す付加価値が増加すれば、その分賃金を上げても企業収益は減少しない。このケースで重要になることは、労働生産性が上昇することに加え、好況期に労働分配率が低下しないことである。

過去の例からは、企業収益が改善している局面では、労働分配率が低下する傾向が見られる (図表2) 。つまり、労働生産性が上昇し、企業収益が改善しても、労働分配率が低下することで雇用者の給与には反映されない可能性があるのだ。労働生産性の上昇に向けて、労使双方の努力が必要であることは言うまでもないが、収益が改善した暁には、その果実をきちんと雇用者に分配していく姿勢が、経営者に求められると言えよう。

いずれのケースでも、経営者、雇用者 (消費者) 双方の理解と努力が必要であり、一方的に企業側に賃上げを要求するだけでは、持続可能な賃金上昇の達成は難しい。

賃金上昇、デフレ脱却が果たされるか否か、今がアベノミクスの正念場である。政府、労働者、経営者にはそれぞれ、自らが果たすべき役割を理解し、行動することが求められている。

[図表1] 賃金変化を販売価格へ反映した割合
[図表2] 民間法人企業所得と労働分配率

このコラムと同じカテゴリの他のコラムを読む

年別

カテゴリ別