デフレ対策との関係で、インフレ期待が議論されることがある。
内閣府「消費動向調査」では、全国の世帯サンプルを無差別に抽出して、毎月、「普通の人」のインフレ期待についても聞いているので、これと消費者物価指数 (以下、「CPI」という。) 関連の指標いくつかを下のようにグラフ化してみた。
1年後に物価が上がると答えた人の割合によってインフレ期待を見ると(注)、CPIのエネルギー (電気代、ガス代、灯油、ガソリンで構成) や生鮮食品との相関がよく見てとれる。特に、エネルギー価格の上昇は、インフレ期待に大きく影響するようである。
ところが、生鮮食品やエネルギーは、エコノミストがその変動の大きさなどから、物価の分析の対象から通常はずしている部分である。生鮮食品を除いたものがコア、生鮮食品とエネルギーを除いたものがコアコアだが、グラフを見る限り、コアはわずかながらインフレ期待と連動していることが見て取れるが、コアコアについては殆ど無関係に見える。なお、グラフでは、CPIのコアと総合は殆ど区別がつかない。
インフレ期待を抱き、実際にインフレをもたらすのは、エコノミストではなく、普通の人・消費者である。普通の消費者は、コアやコアコアなどは全く考えておらず、日ごろ購入する品物の価格を基にインフレ期待を形成する。
スーパーの棚の一部からモノがなくなり、普通の人の間にいったん物資不足の認識が広まると、インフレに火が付くのはこれまでも経験してきたところである。例えば、1974年のオイルショック頃のトイレットペーパー・洗剤不足騒ぎがあり、結局、狂乱物価がもたらされた。1993年の米の大不作、「平成の米騒動」の際も、コメだけでなくモノやサービス全体のインフレにつながることが懸念されたがなんとか収束している。最近では、2011年3月の東日本大震災後、様々なモノがスーパーの棚から消え始めたが、短期間で終息した。
このような狂乱物価は、何としても回避されるべき悪性インフレである。消費動向調査などによる監視は、注意深く続けられていく必要がある。
一方、昨今のようにCPIでみて1%未満の変化幅が問題となるデフレは、これとは異なる。人口減少などによる需要不足、為替、金融政策、海外の安い労働力で作られた製品の台頭、規制緩和など様々な要因が絡まった複雑な現象である。
普通の人・消費者の側からは、何が望ましいのであろうか。例えば、消費者が少々高くても買いたいというモノ・サービスが販売される、ということがひとつである。機能などが同じであるのに価格が上昇するのは消費者にとって好ましくない。パソコンやテレビの価格がすぐ下がるといっても、同じ機能のものに関してである。新製品であれば機能は優れているはずである。価格が高くとも、それを上回る何かがあれば消費者は購入するであろう。デフレ解消にもつながるはずである。
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