大和総研コラム

相続税と所得税の二重課税、調整措置縮小の流れ

  • 政治
  • 掲載日 : 2012年12月12日
  • 大和総研金融調査部 吉井一洋

現在活動停止中の政府の税制調査会において、会計検査院から相続財産に係る譲渡所得の課税の特例に関する意見が提出されている。

相続により財産を取得した個人が、相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の申告期限の翌日以降3年を経過する日までの間に、その相続財産を譲渡した場合には、その譲渡所得の計算上、譲渡した相続財産に対応する相続税額も、取得費として控除できることとされている。これは、相続税の課税対象となった相続財産の譲渡が相続の直後に行われる場合に、相続税と所得税が相次いで課されることの負担調整を目的としている。

さらに、土地等を相続する場合については、譲渡した土地等に対応する部分に限らず、相続した全ての土地等に対応する相続税額を取得費として、譲渡した土地等の譲渡収入から控除することができることとする特例が1993年 (平成5年) に設けられている。これは当時の地価の動向、相続税評価割合の引上げ (公示地価の7割から8割) 、譲渡益に対する税率の引上げ、物納した場合の負担のバランスの調整を図るなどの諸事情を考慮したものと説明されている。

今回の会計検査院の意見の対象となったのは、1993年に設けられた特例の部分である。会計検査院が2009年、2010年の延べ1,966人のデータを調査し、この特例により、譲渡収入から控除できる取得費加算額が特例を適用しない場合と比べて2倍以上となっている者が、金額ベースで全体の63.4%を占めていることを指摘している。その上で、この特例により取得費の加算額が786億円増加し、その結果、所得税額が118億円減少したと試算している。この結果に基づき、会計検査院は、地価下落などにより土地等の相続税評価額は大きく減少していること、土地等に係る長期譲渡所得 (5年超保有) の税率も30%(※1)から15%(※2)に半減していること、相続税の物納申請者数が急減し、物納により非課税とされる所得税額も著しく減少しているということも踏まえ、本特例措置の廃止を提言している。

相続税と所得税については、上記のような調整措置以前に、そもそも二重課税ではないかとの意見も根強くある。わが国の相続税法では、相続人は、相続財産については被相続人の取得価額を引き継ぐ。相続時においてはそれまでの資産の値上がり益 (相続時の時価と被相続人の取得価額の差額) を含んだ時価で相続税が課税される一方で、相続した資産をすぐに売却した時には、当該値上がり益に譲渡益が課税されるからである。米国では、相続時の時価を相続人の取得価額とするため、このような二重課税は調整されている(※3)。これに対して、わが国では相続税と所得税は別の税制であり、二重課税は生じていないと解されており、納税者側からすれば厳しい制度となっている。

相続税と所得税の二重課税については、過去に年金保険について問題となった。2010年7月6日に最高裁が、年金形式で保険金が支払われる死亡保険について、残存期間に受けるべき年金総額に所定の割合を乗じて計算した金額、即ち、将来受け取るべき年金金額の相続時の割引現在価値部分は、相続税の課税対象となる経済的価値であり、所得税の課税対象とならないとの判決を下した。これを受け2011年度税制改正においては、所得税の還付のため支給制度を設けるとともに、年金保険の所得税の計算規定の見直しが行われた。

この最高裁の判決によれば、年金総額の相続時の価値は相続税の課税対象となるべきものであるため所得税は非課税であり、実際に受け取る年金総額と当該相続時の価値の差額が運用益として所得税の課税対象となる。この考え方に従えば、例えば、土地や株式等についても、相続時の時価 (相続税評価額) までは所得税非課税で、相続後の値上がり益を課税対象とすることで前述した二重課税を調整すべきようにも思われる。最高裁の判決を契機に、この二重課税に対して何らかの調整措置が講じられないか期待されたが、そのような見直しは行われなかった。逆に、相続時に生じている未実現の利子・配当についても、実現時において相続人に所得課税する旨が明記され、二重課税は生じていないとの考えが、改めて、徹底されることになった(※4)

冒頭で述べた特例は、あくまで相続税額を取得費に加算するものであり、値上がり益部分の二重課税を調整する措置ではないが、会計検査院の提案が実現すれば、相続税と所得税の税負担の調整措置が縮小されることとなる。資産課税の強化が強調される中、その動向が注目されるところである。

  • ※1 個人住民税は9%
  • ※2 個人住民税は5%
  • ※3 米国は、相続人に課税するわが国と異なり、被相続人の資産全体を課税物件として、例えば遺言執行者を納税義務者にして課税する「遺産課税方式」を採用している。
  • ※4 既経過利子等については、源泉所得税を控除した額に対して相続税を課税しているため二重課税は生じていないとの考え方による。しかし、納税者からすれば、税引前の経過利子等の金額から所得税と相続税が差し引かれることになる。

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