大和総研コラム

議員定数是正問題と企業ガバナンスのアナロジー

  • 政治
  • 掲載日 : 2012年11月28日
  • 大和総研環境調査部 鈴木裕

12月に予定される衆議院総選挙は、最高裁が違憲状態(※1)であるとした選挙区割りの議員定数のままで行われる点で、その憲法適合性を改めて問われることになるかもしれない。11月に実施された自民・民主の党首討論で、衆議院の定数是正 (0増5減) と定数削減について合意し、定数是正は解散前に一応法制化されたが、施行は間に合わなかった。総選挙後の政権の下で議員定数削減の検討が進められることになるだろうが、「正当に選挙された国会における代表者」 (憲法前文) をどのように決めるかは、あらゆる法律・政策の正当性を基礎づける重要な問題である。

国政に国民の総意を反映させる必要があるのと同じように、企業経営には、株主の意向を反映させる必要があり、企業ガバナンスは、それを達成するための手段である。選挙制度と企業ガバナンスには、よく似ているところがある。

国王に議会の決定を覆す権限を認めれば、民主制は形骸化する。同じように、株主総会決議を覆す拒否権付き株式 (いわゆる黄金株) の存在は、普通株式の株主が警戒を示すものとなっている。

国民に立候補の自由がなければ、やはり選挙は無意味になるだろう。誰か (独裁者や支配政党) が認めた者にのみ、被選挙権を与えるならば、議員がいたとしても国民代表とはいえない。取締役候補者は、社長 (や会長) が決めるのが普通であるが、その候補者に対立候補を立てられる可能性がないならば、やはり独裁的といえはしないだろうか。米国の企業ガバナンスでPROXY ACCESSがたびたび検討されるのは、株主が自由に取締役候補者を指名できるようにすることが、株主重視の経営を実現するために効果的だと考えられるからだ。

わが国の企業ガバナンスの問題として減少傾向にあるとはいえ、株式持ち合いは、未だに小さからぬ問題をはらんでいる。持ち合い株式は、企業の資本として空洞化しており、事業の設備投資や運転資金等として機能することは期待できない。一方で株式を持ち合う企業同士が互いの経営陣を支持しあうように議決権を行使することで、株主総会決議の帰趨に影響を及ぼしかねない。持ち合い株式に株主議決権を与えるのは、あたかも政府与党の思うままに当選させられる特別な選挙権を認めるようなものだといえなくもない。

国民の総意を反映する議会が制定する法律であれば、それは国民を拘束するだけの正当性を持つだろう。国民の権利を制限し義務を課す法律であるからといって、国民投票で決めるべきであるとはいえない。複雑な社会のルールを策定する作業は、高い専門知識を持つ者が国民を代表して行う方が、大抵の場合は効率的で効果的だからだ。同じことは、企業ガバナンスについてもいえる。多くの株主は、企業経営のスキルを持っているわけではないし、市場の動向を判断する知識も少ないのであるから、経営上の個々の判断に株主が口をはさむべきではない。企業経営における判断事項の多くは、株主の利益を実現するために、株主の意向によって選任された経営陣の判断に委ねられるのである。株主総会で株主によって選任される経営陣が、株主の利益を拡大するように行動することこそ株主の期待するところである。したがって、株主が企業に求めることは、経営陣が株主の意向を反映するように選任されているかということであり、企業ガバナンスに株主が関心を示す理由は、そうした選任プロセスの適正を確保するためである。実際、米国の株主総会における株主の議決権行使行動を見れば、企業ガバナンスの適正化に対する強い期待があることがわかる(※2)。株主重視の経営に取り組むように動機づけられた経営陣であるならば、その判断は株主にとって好ましいもののはずなのである。

企業の発行する株式や債券に投資をするにあたって、財務情報以外にEnvironment (環境) 、Social (社会) 、Governance (コーポレートガバナンス) への取組みを何らかの形で勘案する投資をESG投資ということがある。しかし、ESとGの間に大きな質的相違のあることが分かるだろう。Gは、いわば選挙制度の適正化の問題であるが、ESは、政策公約 (マニフェスト) の内容である。Gについては、株主の利益を実現するための企業ガバナンス適正化へ取り組むことこそ、多くの株主が経営者に期待していることであろう。企業ガバナンスの改善なしに環境や社会問題への取り組みをアピールされても、株主にはピントの外れたメッセージとしか感じられないのではないだろうか。国民の総意を反映するとはいい難い選挙制度の下では、どのようなマニフェストを掲げようとも民意の反映などできないのと同じである。


このコラムと同じカテゴリの他のコラムを読む

年別

カテゴリ別