大和総研コラム

ASEAN+6構想の実現にイメチェンで挑む中国

  • 国際
  • 掲載日 : 2012年11月19日
  • 大和総研経済調査部 後藤あす美

11月6日に再選を果たしたオバマ米大統領が、早々発表した外遊スケジュールで、タイやカンボジアに加え、11月19日には現職大統領として初のミャンマー訪問をすることが明らかとなった。振り返れば、11年12月、ヒラリー・クリントン米国務長官がミャンマーのテイン・セイン大統領や、自宅軟禁を解かれたばかりのアウン・サン・スー・チー氏と会談したことから、ミャンマーの体制転換が加速しており、アジア太平洋重視政策のもと、米国政府による支援継続を表明する機会となるのだろう。

ただ、アジア最大の経済国となった中国にとっては、ミャンマーを含むASEAN諸国とは特段良好な関係を築こうと努力してきただけに、米国からの牽制とも捉えられる行動に対して、心中は穏やかではないはずだ。

そもそも、米中関係は、中国の対米輸出が高い伸びを見せ、債務危機を発端として経済が低迷するEUや、東日本大震災や尖閣諸島問題で落ち込んだ日本との貿易減少分をカバーする一方で、オバマ政権は保護主義的なスタンスをとり、中国重機大手による米風力発電所投資を拒否するなど、非常に微妙な関係だった。これを調整してきたヒラリー・クリントン国務長官は歴代で最多の訪中をこなし、交渉チャネルの確保に尽力してきたが、2期目のオバマ政権ではその職から退く見通しだ。

また、中国・ASEAN関係に注目すると、中国にとってASEANは近隣諸国というだけでなく、[1]自国の技術水準での経済支援が可能であり、[2]ベトナムやミャンマーなどは自国よりも安価な労働市場を保有し、[3]これから中所得国へと成長していく豊かな市場でもある。また、ミャンマーの場合は米国等の経済制裁下でも支援を続け、親中的な空気を醸成してきた経緯もある。直近では日中間で問題になっている尖閣諸島と同様、ASEANとは南沙・西沙諸島を巡って対立しているが、こちらは相手がASEAN諸国とあって、南シナ海行動規範の策定に向け、協議は継続している。

しかしながら、経済成長に伴って発生したASEAN域内での競争激化が、アジアにおける中国の絶対的存在感を弱めている。例えば、ASEAN加盟国間で、外資誘致に繋がる税制優遇合戦が繰り広げられている。ミャンマーでも11月2日にテイン・セイン大統領が新外国投資法を承認するなど、ASEAN諸国の自助努力が、投資環境の改善に繋がり、中国に向いていた世界の資金が一層ASEANにシフトすることになる。また、TPP交渉参加議論でベトナムやマレーシアから後れを取っていたタイは、11月12日に閣議で交渉参加方針を決定し、オバマ大統領の今回のアジア外遊の手土産とするなど、外交カードも多彩になってきた。

この中、11月14日に閉幕した第18回共産党大会開催中に行われた記者会見で、陳徳銘・中国商務相が、ASEAN+6によるFTAをTPPより重視すべきと捉えられる見解を述べている。そもそも「ASEAN+3構想」を推していた中国が日本主導の「ASEAN+6構想」を容認したのは2011年。しかし、今や「ASEAN+6構想」を推し進めたいのは中国となってしまっているのではないか。尖閣諸島問題で揺れる対日関係は硬直化しているが、中韓FTA交渉では、経済的な観点から北朝鮮の開城工業団地の利用を検討するなど、ASEANの代替地域を模索している。また、カシミール問題で火花を散らし、通信機器や綿花の禁輸措置で衝突したこともあるインドからは、元大統領で胡錦濤・中国国家主席と共にBRICs台頭を印象付けたアブドゥル・カラーム氏を北京大学に招聘し、インド国内では話題を提供している。加えて、中国の対外進出で“民間”投資が拡大しているとアピールすることに躍起になっている。例えば、2013年にミャンマーで開催される「第27回東南アジア競技大会」へは、中国の100%民間資本の華為技術が300万ドル相当の最新通信機器導入を支援する。

11月15日の第18期党中央第1回全体会議で発表された中国共産党新指導部は、勢いづくオバマ米政権と成長著しいASEANに、予想外の手法でアジアの巨人“中国”を印象付けられるか、その手腕が試されよう。


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