大和総研コラム

抗えない完全民営化という『運命の力』

  • 政治
  • 掲載日 : 2012年11月14日
  • 大和総研調査提言企画室 兼 金融調査部 島津洋隆

10月1日、日本郵政グループは、持株会社の日本郵政株式会社の傘下に4社 (郵便事業株式会社、郵便局株式会社、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命保険) という5社体制から、傘下の郵便事業株式会社と郵便局株式会社が合併し、新たに日本郵便株式会社となり、4社体制となった。また、日本郵政グループは4社体制に移行が確定した際の郵政民営化委員会において、ビジネスモデルを提示し(※1)、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険 (以下、金融2社) の新規業務を提示した(※2)。その一方で、新規事業参入についての民間金融機関や海外からの懸念も、郵政民営化委員会で示されている(※3)。こうした懸念は、特に日本郵政グループの金融2社について、政府出資が残る状況、つまり「暗黙の政府保証」(※4)が残存している状況では、対等な競争条件 (「イコール・フッティング」) を確保できなくなり、民間金融機関のシェアを奪われかねないと危惧しているからであるとみられる。

では、そもそも郵政民営化は如何なる必然性の下で進まなければならなかったのであろうか。

巷でよくいわれているのは、小泉純一郎元首相が「民間でできることは民間に」と述べていた「小さな政府」という政策の柱である (郵政民営化が小泉内閣の「一丁目一番地」といわれていたことが証左であろう) 。

だが、実際には、2001年4月の財投改革 (郵貯資金の全額自主運用開始) が、郵政事業の完全民営化という道を選択せざるを得ない状況をもたらしたと考えられる。

財投改革前、郵貯からの預託金利 (7年) は10年物国債クーポンレートに0.2%上乗せされていた。また、郵貯は政府内金利である預託金利の変更時期を知っていたことから、金利の動きが分かって資金運用をしており、利益を得やすい立場にあった。加えて、郵貯は国庫内にあることによるメリット (具体的には、資金運用部からの預託金利の概算払いを受けることで、0.1%弱の運用利回りが上乗せされること) を享受していた。

財投改革後、郵貯は自主運用の道をたどることとなり、そうした全ての運用上のメリットは絶たれた。そのため、郵貯は信用リスクを取るような貸出業務等の新規業務に参入せざるを得ない状況に置かれることとなった。仮に、郵貯が信用業務によるリスクテイクを行わず、運用は国債、またはそれに準ずる安全資産に限定すれば、運用利回りは国債金利程度になり、人件費等を確保するための十分な利鞘を得ることは困難であると推測される。これは、そう遠くない将来に郵貯の経営状態が悪化する可能性があることを意味している。具体的には、「骨格経営試算(※5)でも示されているところである。

仮に完全民営化を実施しないならば、信用リスクを取るような貸出業務等は行えないであろう。というのは、ゆうちょ銀行は公的主体と変わらなくなり、万一の場合 (たとえば、破綻時) に国民負担というわけにはいかず、信用業務によるリスクテイクが困難であるためである。そうなれば、遅かれ早かれ経営が立ち行かなくなる可能性がある。最終的に金融2社は完全民営化の道を選択せざるを得なくなるだろう。

さらに、金融2社に政府出資 (「暗黙の政府保証」) が残存している状況下で新規業務を行えば、約2万4千局の郵便局のネットワークを擁している優位な立場にある金融2社が、他の金融機関より競争条件が一層優位な立場となり、民間金融機関のシェアを奪うことになりかねないとみられる(※6)。また、USTR (米国通商代表部) が改正郵政民営化法について懸念を示しているだけでなく、WTO (世界貿易機関) の「内国民待遇の原則」に抵触する恐れがあると考えられる(※7)

財投改革後に郵貯が運用面で受けていたメリットを失ったことだけでなく、国内ないしは海外から金融2社に対して熱い眼差しが注がれている現状に鑑みると、金融2社は必然的に完全民営化の道に進まざるを得なくなる。結局、金融2社は完全民営化という『運命の力 (“La Forza del Destino”) 』に抗えないのではないか。


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