大和総研コラム

米国SEC、NY証券取引所に対して市場データの不適切な配布の件で制裁金を課す

  • 国際
  • 掲載日 : 2012年9月27日
  • 大和総研上席参事 吉川満

即時リリース2012-189

SECのウェブサイトには、SEC規則が適用された例が列挙されています。このウェブサイトを見ると、SEC規則適用に関する最近のSECの姿勢がよくわかります。実は米国の証券法制の根幹は、1930年代、40年代に作られたものなのです。とりわけ中心となるのは、1933年証券法、1934年証券取引所法の二法です。両法は確かに、画期的な内容を多数含んでおりますが、何しろ制定されてからすでに100年近くが経過しているので、いろいろ実態に合わない点が目につくようになってきました。米国の証券制度を実態に合わせて作り直そうと言うのは、ドッド・フランク法の全編を貫く指導理念の一つでもあると思われます。ですからドッド・フランク法には随所に大規模な証券法制改革の意気込みを見ることができます。

例えば、従来は伝統的な商業銀行だけに要求されていた自己資本基準はドッド・フランク法施行後は証券会社、保険会社、等を含む全金融会社に要求されるようになりました。2008年金融危機で、商業銀行の形はとっていなくても、他の金融機関でも実質的に同じ業務が行える事が明らかになったのですから、全金融機関に自己資本基準の順守を要求するのはもっともな事といえましょう。このように証券規制を見直す動きはドッド・フランク法制定後も様々な分野で続けられています。たとえばSECのウェブサイトには9月14日付で「米国SEC、NY証券取引所に対して市場データの不適切な配布の件で制裁金を課す。」というニュース・リリースが掲載されています。内容は同リリースによれば次の通りです。

「米国SECは、本日NY証券取引所に対するその種のものとしては史上初めての、コンプライアンス違反に係る制裁金支払いを請求しました。その違反は特定の顧客に対して、取引情報への不適切な有利なアクセスを与える物なのです。

SECのNMS (ナショナル・マーケット・システム) 規則は自己売買取引の顧客に対して不適切にデータを配布する慣行を、禁止しています。規則は、市場データが、取引データ・正確な引用データとして公衆に広範に配布するコンソリデイテッド・フィーヅという名で知られているデータ集に含められる様に発信されるまで、自己売買取引の顧客に対して不適切に配布する事を禁止しているのです。この事は公衆が株式の開示されたベストの価格と、実行された取引とに関する現在の市場情報に公正にアクセスする権利を持っている事を保証します。

NY証券取引所に対するSECの命令によれば、NY証券取引所はデータをコンソリデイテッド・フィーヅに送る以前に、同取引所の二つの自己売買の回線を通して、2008年以降の長期間にわたって、データを発信し、そのSEC規則に違反したのです。NYSEのコンプライアンス努力は適切でなかったので自己取引用の回線の速度を、コンソリデイテッド・フィーヅへのデータ送信の速度と比較してモニターしていませんでした。

NYSEとその親会社である NYSEユーロネクストは500万ドルの制裁金とSECの支払い要求を清算する為の多額の支払いに同意しました。これは、SECが証券取引所に対して課した、史上初めての制裁金という事になります。」(※)

このNYSEのケースを、先ほどの証券会社の自己資本のケースと比較すると、明らかに一つの相違点が指摘できます。証券会社の自己資本のケースでは従来は自己資本を現在の必要量だけ備えていなくとも、違法とはされていなかったのが、ドッド・フランク法が成立した事により、新たに違法と定められたのです。

これに対してSECのNMS規則は、従来データの不公正な配布を不公正と定めていましたが、これまでは具体的に不公正と認定されるケースが無かったのです。取引の電子化が大きく進んだ事により、初めて具体的に不公正かどうかが問題になるようになったとも言えましょう。

しかし、証券会社の自己資本のケースにしても、取引所の情報開示にしても今後は新しくできた、ないしは新たに適用されるようになった法律・規則に従い厳しい目で判断していく事が必要になると言えましょう。こうした点を考えると、証券取引法関連の解釈は厳しくなる事を前提に、考えていかなければならない様に思われます。

もっとも、それは技術進歩により、人間に可能な行動の範囲が広がった事の代償とも考えられますからいたずらに悲観するには及びません。


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