物事を調査することを職業としているため、調査対象の将来展望というのはやや言いすぎだが、先行きどのような変化が起こるのか、考えることが求められる。分かりやすく日本で例を挙げれば、バブル崩壊以後、なかなか経済停滞からの突破口が見いだせない中、今後の日本経済・資本市場・制度的な枠組みがどのような針路をとるのか、またとるべきか考える必要がある。
先行きを考える上で有用な方法は、他国と比較して現状を分析すること、過去の経験則に学ぶこと、の二つである。ここでは、過去の経験則に学ぶという方法について、最近、私が興味を持っていることをご紹介したい。
このコラムをご覧になっている方で国立国会図書館の「近代デジタルライブラリー」をご存じの方もいらっしゃるだろう。明治・大正時代の書物や議会の議事録等を、わざわざ国会図書館等に足を運ばずともインターネットを通じて手軽に読むことができるというものだ。
この中で私が最近興味を持っているのが所得税の歴史である。歴史を紐解くと、個人所得税の導入は明治20年 (1887年) であり、今から125年前のことである。法人所得税の導入はそれから12年後の明治32年 (1899年) であった。個人所得税と法人所得税は、ほぼ同時に導入されていてもおかしくないように思われるが、導入時期には違いがあった。
その要因を「近代デジタルライブラリー」に格納されている『元老院会議筆記534号』 (所得税導入時の元老院会議録) で調べると、個人所得税導入当時も法人所得税を導入するか否かという議論を数多く行っていたことが分かる(※1)。政府の所得税法原案では法人所得課税を明記しておらず、元老院ではこの点について法人所得課税派と非課税派で激しい議論が行われた(※2)。非課税とされた主な理由は、勃興しつつある産業の育成にあると思われる。資本主義が草創期にある中で欧米の強大な軍事力に対抗するために経済発展が不可欠であり、法人を非課税にすることで法人の活動を活発化させ、経済発展促進の一助にする狙いがあったためだ。
この資料は会議録であるため発言者の一言一句まで詳細に書かれており、当時の雰囲気、息遣いを感じることができる有用な資料である。このような議会の会議録の他にも、哲学、歴史、産業、芸術など10分野の資料が格納されている。興味のある分野の資料を読まれることをお勧めしたい。
ただし、これらの文章は旧字が使われており、解読するには時間がかかる。ちょうど季節は秋に入り、夜の長い時期に入る。秋の夜長を活用し、読み進めるのも一つの手である。期待を裏切らない価値を提供してくれるはずだ。
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