大和総研コラム

投資指標としての企業ガバナンス―有効性は低下しているか?

  • 経済
  • 掲載日 : 2012年9月19日
  • 大和総研環境調査部 鈴木裕

投資先企業のガバナンスの良し悪しを投資判断の材料に組みいれることで、市場の平均的リターンを上回ることは可能か、様々な実証研究が米国や欧州、また日本でも行われている。検証の結果は多様で、有効とするものもあれば無効というものも少なくない。

既知の情報は、株価に変動をもたらさないという状態を指して「織り込み済み」というが、企業ガバナンスに関する情報はどうであろうか。取締役会の構成や社外役員の独立性、買収防衛策の有無やその内容、配当政策・資本政策、といった企業ガバナンスの基本状況に関する情報が全て入手可能であるならば、こうした情報を基にした投資判断に超過リターンを期待することはできないだろう。情報は株価に織り込まれており、新たな株価変動 (上昇、下降) を惹き起こさないからだ。

米国で行われた実証研究の中に2000年頃までは、企業ガバナンスの良好な企業の株式を買い、不良な企業の株式を売るというポジションをとることで、市場平均リターンを上回ったとするものがある。この研究を行った研究者によると、そのような効果は近年急速に薄れつつあるという(※1)。ガバナンスの良否が株価に影響を及ぼすとなれば、投資の参考材料となる企業ガバナンス格付け(※2)が行われ、経済紙誌は企業ガバナンスに関する報道を増加させるだろう。これによって企業ガバナンスは、もはやサプライズではなくなり、新たな株価変化を生まないということになる。2000年以降、こうしたプロセスが進んだことによって、グッド・ガバナンスのロング、バッド・ガバナンスのショート、という戦略の有効性は失われたという。企業ガバナンスの情報は織り込み済みになったのである。この結果は、意外なものではない。むしろ2000年までは有効であったというのが不思議なくらいだ。2000年以前であっても、企業ガバナンスに関する情報は、今ほどではないにしても開示はされていたのであるから。

では、企業ガバナンスの情報は投資判断を下すうえで無価値かといえば、そうではあるまい。前述の実証研究の記すところによればグッド・ガバナンス企業では、トービンのQ(※3)が比較的高いという。とすれば、それは投資家の新たな行動を促す誘因となるのではないだろうか。企業ガバナンスを改善すれば、トービンのQが増加し、株価も高まると期待できるから、投資家から企業にガバナンスの改善を働きかける動機になる。実際、企業ガバナンスに対する投資家の関心は高い(※4)。CEOと取締役会議長を別人にして互いの牽制を強めるとか、社外役員の独立性を強化するとか、買収防衛策を廃止するなど、様々な企業ガバナンスの改善提案があるが、いずれも目的は一つ、高い投資収益の獲得だ。

企業ガバナンスに優れた企業に投資しても、情報が織り込み済みのため市場平均を超えるリターンが期待できなくなったとの研究結果はあるが、企業ガバナンスに劣る企業がそのガバナンスを改善させたときには、高リターンを得られるかもしれない。ガバナンスの状態の改善 (または悪化) は、これから発生する情報であるから、当然まだ織り込まれてはいない。このガバナンスの状態を変化させるために投資家は、企業経営者との対話に臨んでいる。その対話の材料として企業ガバナンスの情報は役立てられるのであり、今後も投資家の関心を集めていくことだろう。


このコラムと同じカテゴリの他のコラムを読む

年別

カテゴリ別