大和総研コラム

海からみたニッポンの金融市場 (沖縄編)

  • 経済
  • 掲載日 : 2012年9月5日
  • 大和総研金融調査部 菅野泰夫

夏が過ぎ、秋へと移り変わる季節となった。秋は日本の海で最も波が良い時期なので、波乗りを楽しむ人達には楽しみな季節である。日本の海で真っ先に思い浮かぶ地域といえば沖縄県。特に沖縄の海は世界的にみても透明度が高く、欧米にも根強いファンが多い。イギリスで出版された世界中の“冒険野郎”に大人気のガイドブックであるThe World Stormrider Guide (Low pressure社) にも沖縄の海が紹介されている。この本は、世界中の秘境を中心としたサーフスポットを紹介した秀逸なガイドブックであり、現在、経済的にも注目されているミャンマーやアフリカの情報も多数掲載されている。欧州の人からみたら沖縄も十分魅力的な冒険の地に該当するのかもしれない。

そんな折、沖縄の金融市場の調査のため、現地視察をする機会に恵まれた。尖閣諸島や辺野古湾への基地移設問題といった政治的・外交的な問題に加えて、まだまだ高い失業率に悩むこの県に、「海」を利用した金融市場・経済の活性化策をいくつも感じることができた。

沖縄には地域特異の経済・金融構造があるといわれている。特に沖縄県の経済状況は全国的にみても悪く、沖縄県企画部統計課の「労働力調査」によると完全失業率は平成23年度の全国平均の4.5%を大きく上回る7.1%に達している。また沖縄で3Kといえば“公共投資、観光、基地収入”への依存経済を指す。特に観光産業への依存度が高く、大震災や金融危機等により観光自粛ムードが広がると影響を受けやすい。さらに県民所得や貯蓄率が非常に低い。沖縄県企画部統計課の「県民所得統計」によると平成21年度 (平成24年2月発表) での1人当たりの県民所得は全国比77%にとどまり、世帯当たりの貯蓄高は全国比の約3割にしか満たない。

また沖縄県は、県内に店舗を置く金融機関の数が全国的にみて圧倒的に少ない県である。地銀、第2地銀が県内の金融を牽引しており、大手銀 (メガバンク) は僅か1店舗しか存在せず、信用組合は存在しない。これは日本全国でも珍しく「逆オーバーバンキング」状態の地域である。これにより貸出金利競争が緩やかとなり、不良債権比率の高さや、八重山諸島等の地域に代表される離島への支店設置のコスト (通称:離島スプレッド) 等の要因も重なり、貸出金利は全国でも最も高い地域となっている。よって沖縄の企業は慢性的な資金不足という問題を抱えているのが現状だ。

こうした金融構造のため、間接金融だけに頼った産業創出への資金供給には限界がある。よって、世界でも魅力的な「海」を活用した金融市場からの資金調達を検討する余地があるといえよう。

特にまだまだ開発途上にある沖縄でのインフラ関連等には、大規模な資金調達が欠かせないともいえる。特に今注目されている、海洋エネルギー・潮力発電、太陽光といった再生可能エネルギーの資金支援の問い合わせは、現地金融機関に既に数十件以上寄せられているとのことだ。サブプライムローン問題以降、本来のキャッシュフローから逸脱したファイナンス手法が頓挫した昨今では、再生可能エネルギーも含まれるインフラファイナンスが世界各国で注目されていることも追い風となっている。ただし、台風が多い沖縄に単純に、再生可能エネルギーの装置を設置することは、機器の耐久性の問題点から採算が合わないケースもあるそうだ (むしろ北海道に設置した方が、雪からの反射光や雪がサラサラのためソーラーパネルからも勝手に落ちてくれるとのこと) 。

また魅力的な「海」を利用した観光産業の更なる発展も沖縄経済にとっては重要な課題となっている。東日本大震災以降、アジアからの観光客が頭打ちとなっているため、もっと欧米からの観光客を誘致することが更なる経済の活性化に寄与する可能性が高い。バリ島やプーケット島には日本よりも遠いフライトでも北欧やロシア、大陸欧州の観光客が大挙して訪れているが、それより時間的に近い沖縄では、あまり欧州地域の観光客を見かけることはない。長期滞在型のプランや、欧州からのダイレクトフライトなどのチャーター便等を手配できれば東南アジア以上に透明度が高い沖縄の海に休暇を求めてやってくる可能性は十分にあるだろう。ただし、現在のボトルネックは那覇空港の滑走路が1本しかなく、国内線、国際線、自衛隊が共用で使用しているため、更なる離発着枠が取れないことである。そこで、現在新滑走路の建設が予定されており、ターミナルや滑走路の整備に関しても金融市場からの調達が大きな役割を果たすであろう。

株式市場が停滞する日本には、豊富でかつ魅力的な「海」からの資源があり、それを基にした新しい金融市場の可能性はいくつも感じることができる。貿易収支も赤字に転落し、かつてのモノづくり中心での日本市場の魅力を伝えることは、限界が来ているのかもしれない。もう一度、海に囲まれた日本を再認識し、新しい金融市場の活性化を模索することが求められる。今後も沖縄の「海」を活用した新しい金融市場の活性化に期待したい。


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