大和総研コラム

食料の安全保障について考える

  • 経済
  • 掲載日 : 2012年9月3日
  • 大和総研経済調査部 増川智咲

穀物価格の上昇が懸念材料として注目されている。8月24日時点での国際価格動向を見ると、2006年秋ごろと比較して、トウモロコシ価格は3.6倍、大豆は3.2倍、小麦は2.3倍の水準にも上昇している (農林水産省発表資料) 。6月以降、米国のコーンベルトで高温・乾燥が続いたことが主な背景にある。実に、米国ではトウモロコシ栽培のうち88%、大豆栽培のうち87%が干ばつ被害地域で栽培されているとも言われており (米国農務長官、7月20日) 、70年に一度の干ばつ規模と呼ばれる深刻な状況だ。

これに対し、米国では「食料か燃料か」という議論が起きている。同国では、環境保護庁が石油業界に対し、バイオ燃料の使用義務量を設定しており、トウモロコシベースのバイオ燃料に関してはその使用義務量が2012年に132億ガロン、2022年には150億ガロンまで増加させるよう規定している。実際、米国農務省が発表した米国のトウモロコシ生産統計を確認すると、2011/12年度、2012/13年度と2年連続で総供給量の減少を予想する一方で、そのうちバイオ燃料向けの供給割合は2012年度に約40%へ上昇すると予想している。深刻な干ばつに直面する中、バイオ燃料向けのトウモロコシを食料需要に回すべきだとの意見にも納得できる。しかしこれに対し、バイオ燃料向けトウモロコシ量を一時的に減少させる策は有効であるとしても、そもそも天候を要因とした供給不足や新興国の食料需要増というバイオ燃料以外の需要要因がトウモロコシ価格の高騰に大きく寄与している点に鑑みると、この問題はバイオ燃料を巡る、単なる「食料か燃料か」という二者択一の問題ではないということが分かる。

穀物価格の高騰が、世界的に食料価格を高騰させた2006-08年とは異なり、今回の穀物価格の高騰が及ぼす影響は、国ごとに異なるものになると考えられる。例えば日本の場合、2008年に輸入小麦の政府売り渡し価格が大きく引き上げられたことを受け、小麦粉やその関連商品価格も上昇した。しかし、その後、輸入小麦価格が2009年に入り低下した際、小麦粉やその関連商品価格は、2008年時の値上げ幅ほどは引き下げられなかった。実際、麺類やパン価格の足元の水準は、2006年レベルまで戻っていない (図表) 。2008年に小麦粉やその関連商品への価格転嫁が進んだと考えると、今回の国際的な穀物価格高騰による関連製品価格への影響は軽微なものに留まるだろう。

他方、消費者物価バスケットに占める食料価格のウエイトが高い新興国においては、金融政策の舵取りが難しくなる可能性が考えられる。世界的な景気減速を受けて、いくつかの新興国では金融緩和に乗り出しているが、食料を中心としたインフレ懸念が高まることで、政策の選択肢が狭まる可能性がその背景にある。もちろん、金融政策は食料やエネルギーなどの供給側に起因する一時的な価格高騰に振り回されてはならない。ただし、それらの価格高騰が、非食料・エネルギー価格にまで波及したり、期待インフレ率を上昇させたりするなどした場合、それに対応する金融政策が取られて然るべきである。景気が減速する中、インフレを警戒し金融緩和が停止するとすれば、新興国経済回復の足かせとなる。

新興国経済が世界経済をけん引している今、食料の安定的な供給を確保する、「食料の安全保障」を喫緊の問題として真剣に考えなければならない。

[図: 輸入小麦の政府売り渡し価格と小麦関連の企業物価、消費者物価指数]

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