指導層の交代を控え、中国では様々な改革措置が相次いで打ち出されている。金融分野は特に顕著で (2012年4月27日コラム) 、4月の人民元相場変動幅の拡大、外国人投資家の対中証券投資枠引上げ、温州金融実験区の設置に続き、その後、以下のような措置が発表されている。
政治的要因は別として、これら改革の背後にある主たる要因は、予想以上の景気の減速と無視し得なくなりつつある構造問題だ。たとえば外国人投資家の対中証券投資緩和措置は明らかに、低迷する株式市場の活性化のため、海外の投資資金を呼び込もうとするものだ。2011年上海市場の株式売買代金は23兆7,560億元と、2010年 (30兆4,312億元) 比21.9%の減少、上場株式時価総額も14兆8,376億元で、前年 (17兆9,007億元) 比17.1%減、また上海総合指数は最高値3067.46、最安値2134.02、年末の終値は2199.42と、前年終値2808.08比21.7%低下しており、同指数は2012年に入ってからもおおむね2100-2450のレンジで推移している。市場関係者が意識する「危機ライン」は2000と言われており、そうとすると、最近の水準は当局としても座視できない。「現代服務業合作区」も明らかに、クロスボーダー取引の活性化が念頭にある。人民元相場の弾力化は、市場で人民元相場の下落期待が生じている状況を基に、人民元改革の流れの中で人民元安を実現し、低迷する輸出を再度刺激することによって、景気鈍化に歯止めをかける狙いがある。他方、金利弾力化の背後には、実質マイナスの預金金利で不利益を蒙る一般庶民の不満の高まり、また温州の実験区設置の契機には、昨年秋、資金難に陥った中小企業が相次いで倒産・夜逃げする事態が発生したことがある。いずれも、長年続けられてきた人為的低金利政策や規制金利、国有商業銀行の融資にあたっての大型国有企業偏重等、一部既得権益層を利するだけという構造問題が顕在化したものだ。
金融分野に止まらず、民間セクター全体の発展促進を企図した動きも再び出てきた。現政権下では、国有セクターが再び拡大し民間セクターが縮小する「国進民退」と言われる状況が見られると言われているが、民間投資促進を目的としたいわゆる「新36条」 (2010年制定) に基づき、本年上半期、各部門が「新36条実施細則」を発表、そして7月末に開催された国務院常務会議では、この実施細則の徹底、それを通じて民間資本に公平かつ透明性のある市場環境を提供すること、市政 (公共事業) 、鉄道、エネルギー、電信、金融、教育等を民間資本参入の重点分野とする等が議論されている。民間セクターは、銀行の短期融資シェアは10%にすぎないが、GDPの5割以上を創出し、都市部での新規雇用の96%を吸収している (8月1日付China Daily) 。それだけに、成長が鈍化するマクロ循環局面では、その重要性が増してくる。またそれ以上に、国有企業の様々な非効率を温存したままでのこれまでの投資・輸出主導の高成長は持続不可能で、民間セクターにも成長のエンジンを求める発展方式へ転換すべき時期になりつつあるとの認識が、中国内で高まっているということではないか。
一般的に問題が生じると、平時には進まなかった改革が進みやすくなる。そしてその速度は、問題が深刻であるほど (そして政策当局者がそう認識すればするほど) 加速する。中国経済についても然り、最近の相次ぐ改革措置の発表は、マクロ循環と経済構造の両面で、中国政策当局が現状をかなり深刻にとらえていることの裏返しと言える。人民銀行幹部が、「金融改革を加速させる意義」を「発展方式を転換し持続的成長を図ること、成長を広く一般の福利向上につなげること」と位置付けていることも (「新世紀」8月6日号掲載論評) 、その端的な例だ。改革措置の実効性については、なお時間をかけて見極める必要があろうが、逆説的に言えば、厳しい認識の下に改革が進められている限りにおいては、中国経済の将来を、過度に悲観的にとらえる必要もないのかもしれない。
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