第二の騎手人生でダービー制覇
障がい者馬術で東京パラリンピックを目指す

ホース・アシステッド・セラピー、通称ホースセラピー。馬とのコミュニケーションを通して心身をケアする、リハビリテーションのひとつです。ホースセラピーをきっかけに障がい者馬術を始め、2020年東京パラリンピックへの出場を目指している人がいます。

馬との交流で心と体の両方を癒やすホースセラピー

元ジョッキーが障がい者馬術でパラリンピック出場を目指す

2020年の東京パラリンピックに障がい者馬術で出場を目指しているのは、常石勝義さん。かつてJRA(日本中央競馬会)で騎手を務め、競馬の最高グレードレースにあたるG1レースでの勝利経験もあります。そんな常石さんはパラリンピック出場を目指すトレーニングの一環として、ホースセラピーを行っていました。

ホースセラピー(正式名称:ホース・アシステッド・セラピー)は、主にヨーロッパで教育と医療の側面を持つ障がい者スポーツとして、広く理解されています。姿勢や平衡感覚といった身体的機能を向上させることに加えて、不安を軽減させたり自己評価能力を高めたりなど、精神的な効果もあるといわれています。

ホースセラピーで馬と触れ合う時間が増えた

常石さんは騎手時代、二度にわたる落馬事故に遭いました。一度は復帰したものの、二度目の事故で左半身マヒと高次脳機能障害という後遺症が残ってしまったのです。そして2007年、常石さんは騎手を引退しました。

常石さんがホースセラピーを始めたきっかけは、社会復帰を目指すためのリハビリでした。ホースセラピーに取り組んでみると、脳のリハビリだけでなく心のケアとしてもいい影響があることがわかってきました。

現役騎手の頃の常石さんにとって、馬に乗ることはレースに出ることで、いわば仕事でした。馬の世話は専門職の厩務員(きゅうむいん)が行っていたため、常石さん自身が馬と触れ合う機会は、実はそれほど多くなかったのではないでしょうか。

常石さんはホースセラピーを始めたことで、現役時代よりも馬とともに過ごす時間が多くなりました。このことが、常石さんが次のステップに進める前向きな気持ちを生み出したといえます。常石さんは、今やホースセラピーは「絶対に大事なもの」と断言します。

障がいを抱えながら馬術競技のトレーニングを続ける

競技競馬と障がい者馬術は大きく違う

かつてプロの騎手として活躍した常石さんにとって、障がい者馬術は簡単かと思いきや、そうではありませんでした。馬を"速く"走らせる競馬と、馬を"美しく"走らせる乗馬は、騎乗姿勢をはじめ、必要な技術が大きく異なるのです。特に左半身が麻痺している常石さんは左脚を踏ん張れないため、馬を真っ直ぐに走らせることすら容易ではありませんでした。

しかも競馬騎手だった常石さんは、競馬での乗馬技術が体に染みついているため、競馬での騎乗姿勢になってしまうことも多々あります。馬術では騎乗姿勢の美しさも評価対象になるので、その改善も常石さんの大きな課題です。

障がい者馬術は自身の脳との戦い

高次脳機能障害がある常石さんにとって、規定のコースを覚えることが困難です。しかし障がい者馬術では身体面の障がいは考慮されるものの、精神面の障がいはほとんど考慮されないそう。記憶力にハンデを抱える常石さんは、コースや騎乗技術を頭ではなく体で覚えるために、反復練習を何度も繰り返します。そんな常石さんは障がい者馬術を「自身の脳との戦い」だと表現します。

馬に乗ると生きるエネルギーをもらえる

そんな常石さんの良き理解者であり、障がい者馬術の師匠でもあるのが、明石乗馬協会の三木薫さん。三木さん自身、常石さんとの出会いをきっかけに、高次脳機能障がいについて大いに勉強しているそうです。常石さんは三木さんとともに、二人三脚で東京パラリンピックの出場を目指して特訓を重ねています。

常石さんは記憶障がいを抱えながらの厳しい練習でも、常に笑顔を絶やしません。

常石さん「馬に乗ると自然に笑顔になります。馬に乗ると、生きるためのエネルギーをもらえるんです。競馬騎手にとって最大の栄誉は日本ダービーを制覇することですが、今の自分にとってのダービー制覇は、障がい者馬術でパラリンピックに出場することですね。」

常石さんは障がい者乗馬選手という第二の騎手人生を、2020年以降も続けるつもりだそう。落馬事故を経て障がいを抱えても、なお笑顔で馬に乗り続ける常石さんの姿は、ホースセラピーを受ける障がい者の方々だけでなく、彼を取り巻く多くの人をも元気づけてくれるでしょう。

大和ネクスト銀行は、えらべる預金「応援定期預金」を通じて、ホースセラピーを応援しています。

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