大和総研コラム

自社株対価TOBで敵対的買収は増加するか

  • 経済
  • 掲載日 : 2017年12月5日
  • 大和総研金融調査部 主任研究員 金本悠希

2018年度の税制改正に関して、経済産業省が自社株式等を対価とする買収を円滑化するための課税繰延措置を要望している。現行制度では、買収の対象となる会社の株主が買収に応じた場合、譲渡所得が発生していれば課税される。しかし、株主が得るのは金銭ではなく株式である。納税するための資金を別途用意しなければならないため、株主によっては買収に応じないかもしれない。一方、買収に応じた場合でも、納税資金を用意するために手に入れた買収会社の株式を売却すれば、株価が下落する可能性がある。

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自社株式を対価とする公開買付け (TOB) による買収は、諸外国では行われており、買収の対価として金銭を支払う必要がないというメリットがある。そのため、わが国でも自社株式を対価とする買収のニーズはあるだろう。

自社株式を対価とする買収を実際に行う場合、次のようなハードルがある。自社株式を対価とする買収は、買収会社から見ると、対象会社の株式を現物出資財産として新株を発行 (又は自己株式を処分) することになる。現物出資の場合、会社財産の充実のため、現物出資財産の価額が出資額を著しく下回ったときは、買収会社の取締役に不足額を補填する責任が課されている。そのため、買収会社の株価が下落した場合、取締役に巨額の補填責任が生じてしまう。

そこで、法務省に設けられた会社法制 (企業統治等関係) 部会が、自社株式を対価とする買収には、上記の取締役の財産価額填補責任を適用しないことを検討している。

TOBによる買収の場合、合併や株式交換等による買収と異なり、敵対的買収に利用できる。そのため、これらの見直しが実現した場合、自社株式を対価とする「敵対的買収」が増加するのではないかが注目されている。

しかし、敵対的買収に利用するには次のようなハードルがある。会社法制部会では、自社株式を対価とする買収を行う場合、買収会社が原則として株主総会の特別決議を行うこととしている。株主総会の決議事項は、株主総会の2週間前までに株主に発信される招集通知に記載されるが、東証上場会社は東証ウェブサイトに招集通知を掲載することが求められる。つまり、株主総会の2週間前までに、買収会社が敵対的買収を行おうとしていることが公表されることとなる。

その結果、対象会社に対して手の内を明かすことになり、対象会社が、「ホワイトナイト」 (友好的買収者) を連れてくるなど、対抗措置を取るための時間的猶予が与えられることになる。また、対象会社が対抗措置を取った場合に、買収会社が交換比率の引き上げなどの措置を取ろうとした場合、再度株主総会の決議を行う必要が生じる可能性もあり、機動的な対応が難しい。加えて、そもそも成功する保証のない買収について、株主総会で3分の2以上の賛成が得られるとは限らない。

また、友好的買収にも当てはまることだが、次のような問題もある。対象会社の株主は買収会社の株式をもらうことになるが、買収に応じる直前にその価格が下落すれば、買収に応じるのを取りやめてしまう可能性がある。

経済産業省の税制改正要望と会社法制部会の会社法の見直しが実現しても、自社株式を対価とする買収を敵対的買収に利用することは依然として難しいだろう。


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