大和総研コラム

金融レポート公表。改めて問われる地域金融機関の付加価値

  • 経済
  • 掲載日 : 2017年11月9日
  • 大和総研金融調査部 主席研究員 内野逸勢

金融レポート (平成28事務年度 金融レポート) が10月25日公表された。注目されている方にとっては“やっと公表された”と思っている方が多いのではないか。念入りに精査したわけではないが、今回のキーワードは、“短期的な収益への依存”、“安易な将来見通し”、“顧客本位”の3つであろう。

揶揄するわけではないが、今回の金融レポートの「地域金融機関」の部分には「短期的」「短期的な収益」という言葉が頻出している。前回の金融レポートでは中長期的な視点でビジネスモデルの持続可能性の懸念を滔々と説いたにもかかわらず、依然、短期的な視点で経営している地域銀行が一部見られることに対する金融庁の“不満”が「短期的」という言葉に表れているのではなかろうか。具体的な地域金融機関の課題としては、当期利益を確保するために、「有価証券運用による収益への依存を高める動き」 (リスク管理態勢の能力以上の金利リスクテイク) 、「貸出分野における量的拡大を図る動き」 (アパート・マンション融資への過度な依存) 、「与信費用の減少」 (貸倒引当金の戻入) における“短期的な収益への依存”が挙げられている。

これらの課題が残る理由のキーワードがもう一つの“安易な将来見通し”である。つまり将来的には金利が上がる、景況が回復してくるなど「安易な将来見通しへの依存」であり、少し厳しい言葉で言えば地域金融機関の“甘え”とも捉えられよう。金融庁の中では、この“甘え”が中長期的な稼ぐ力を劣化させていくのではないかとの懸念が大きくなっているように見受けられる。さらに、“甘え”が組織に蔓延すると銀行内の中長期的な課題解決に向けた経営努力の停滞を招く可能性もあろう。安易な将来の見通しの逆は、客観的な“厳しい”事業環境の認識であり、それを踏まえて中期的な将来ビジョンに落としていくことが重要ではなかろうか。

さらに、上記の最後のキーワード“顧客本位”で問われているのは地域金融機関の付加価値であろう。今回の金融レポートの中では、「顧客本位の金融仲介の取組みを実践する金融機関のガバナンス」という言葉はあるものの、顧客本位の金融商品・サービスの付加価値向上あるいは創出への取組みが組織を挙げて実践されている地域金融機関が少ないとされている。この背景には、リーマン・ショック後、金融緩和政策の継続により長短金利差が縮小する中での収益性の低下、技術の進歩による大幅なコスト削減圧力の中で、地域金融機関だけではなく、金融仲介業全体が将来的な付加価値が描き切れていない感じがある。顧客にとっての付加価値がどの金融業態とも定まっていない、つまり“付加価値”という言葉だけが声高に叫ばれ、本質的な付加価値が漂流している印象を受ける。この意味で、金融レポートにおいて、改めて問われているのは、持続可能性を高めるための付加価値の創出ではなかろうか。

今回の金融レポートでは、直近の今年3月期決算では、前期と比べ、貸出利鞘が縮小し、役務取引等利益も減少するなど、前回の金融レポートの10年後の推計・試算を上回るペースで、顧客向けサービス業務利益 (事業会社のいわゆる営業利益) が減少しているとされている。付加価値創出のための時間は想定の10年よりもかなり短いのではないか。


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